奈良県立医科大学輸血部

業務紹介

造血幹細胞採取

造血幹細胞移植とは

白血病やリンパ腫といった造血器腫瘍は一般的に抗がん剤や放射線による治療が効きやすいのですが、すべての患者さんがこれらの治療だけで完治できるわけではありません。造血幹細胞移植は通常の抗がん剤治療だけでは治すことが難しい場合に行われる完治を目指した治療法です。造血幹細胞は血液細胞である白血球、赤血球、血小板のもとになる細胞で、移植で用いられるのは骨髄、末梢血幹細胞、臍帯血の3種類があります。

造血幹細胞移植は自家移植と同種移植に大きく分けられます。自家移植は患者さんご自身の造血幹細胞(主に末梢血幹細胞)を事前に凍結保存しておき、大量抗がん剤治療後に輸注します。大量抗がん剤治療では通常よりも高い抗腫瘍効果を期待できる一方で、正常な造血細胞の抑制によって強い血球減少を生じ、感染症や出血といった合併症が危惧されます。そこで自己の造血幹細胞を輸注することによって造血をレスキューし、血球減少の期間を短くすることができます。

同種移植では健康なドナーさん(血縁者、骨髄バンク、臍帯血バンク)から提供された造血幹細胞を用います。同種移植により期待されるものとして、自家移植と同様に大量抗がん剤による抗腫瘍効果、輸注された造血幹細胞による造血のレスキューに加えて、移植片対白血病(GVL)効果が挙げられます。これは移植されたドナーさん由来の免疫担当細胞(主にリンパ球)が患者さんの腫瘍細胞を異物と認識して攻撃してくれることで得られる抗腫瘍効果です。

このように造血幹細胞移植は通常の抗がん剤治療では完治が難しい造血器腫瘍を根治できる可能性のある強力な治療ではありますが、一方で時に命にかかわるような重篤な合併症がみられることがあります。そのため移植を行うかどうかは、患者さんの病気の状態だけでなく、患者さんの全身状態や臓器の機能、適切なドナーの有無、患者さんや家族の希望などをもとに総合的に判断しています。

 

1.自家末梢血造血幹細胞移植(autologous peripheral blood stem cell transplantation:autoPBSCT)

自家末梢血造血幹細胞移植

通常は末梢血中には造血幹細胞は認められませんが、抗がん剤治療後に造血が回復する時期や顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte colony stimulating factor: G-CSF)という薬剤を使用した際には、骨髄中から末梢血中に造血幹細胞が動員されてきます。この末梢血中に動員されてきた造血幹細胞を、血液成分分離装置を用いて単球核分画として採取し、超低温で凍結保存します。腫瘍細胞の根絶を目的とした大量抗がん剤治療後に、保存しておいた末梢血幹細胞を輸注し骨髄再構築をはかる治療法です。
輸血部では末梢血造血幹細胞の採取、保存を行っています。
実際の末梢血幹細胞採取において効率の良い採取は、良い血管ルートをいかに確保できるかにかかっています。血管ルートは脱血用・返血用の2本が必要となり、成人の場合は通常、肘正中静脈、橈側皮静脈、尺側皮静脈を穿刺し、18G以上の留置針を挿入します。細い血管に留置してしまうと脱血不良を生じ、時間がかかるだけでなく、採取不良につながってしまうため注意を要します。

 

2.同種末梢血造血幹細胞移植 (allogeneic peripheral blood stem cell transplantation:alloPBSCT)

遠心型血液成分分離装置 Spectra Optia

ドナーさんの末梢血中に存在する造血幹細胞を輸注することによって大量抗がん剤治療、放射線治療後の患者さんの造血をレスキューする治療法です。末梢血幹細胞は自家末梢血幹細胞採取と同様に、ドナーさんにG-CSFを投与し、骨髄から末梢血中に動員されてきた造血幹細胞を、血液成分分離装置を用いて採取します。
輸血部では末梢血造血幹細胞の採取、保存を行っています。

 

3.同種骨髄移植(allogeneic bone marrow transplantation:alloBMT)

ドナーさんの骨髄液中に存在する造血幹細胞を輸注することによって大量抗がん剤治療、放射線治療後の患者さんの造血をレスキューする治療法です。骨髄は全身麻酔下にドナーさんの腸骨に針を刺して採取します。
輸血部では骨髄液の採取、処理(血漿成分や赤血球成分の除去など)を行っています。
骨髄移植についての詳細は、日本骨髄バンクのホームページをご覧ください。また、奈良県在住の方で骨髄バンクへのドナー登録を考えておられる方は、奈良県のホームページもご覧ください。

 

4.臍帯血移植(cord blood stem cell tansplantation:CBSCT)

出産後の臍帯血には造血幹細胞が多数含まれています。その臍帯血に存在する造血幹細胞を輸注することによって大量抗がん剤治療、放射線治療後の患者さんの造血をレスキューする治療法です。臍帯血は臍帯血バンクにて保存、管理されており、そこから提供されたものを移植に用います。日本は世界で最も臍帯血移植が行われています。
輸血部では各臍帯血バンクから届いた臍帯血の使用までの保存、管理を行っています。 臍帯血バンクについての詳細は、造血幹細胞移植情報サービスのホームページをご覧ください。