血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura : TTP)
TTPは、1924年に最初の症例が報告されており、100年近く前から知られている疾患です。もともと血小板減少、溶血性貧血、腎機能障害、発熱、精神神経症状という古典的5徴候で診断されていました。1998年にvon Willebrand因子(VWF)切断酵素であるADAMTS13活性著減がTTPの病因として報告され、現在ではADAMTS13活性10%未満を確定診断に用いています。2015年に指定難病に指定され、医療費の助成制度の対象となっています。奈良医大輸血部では1998年以降TTPの症例集積を行い、その症例の病態解析から新たな治療法の開発を目指しています。またADAMTS13遺伝子解析については国立循環器病研究センター研究所の小亀浩市先生、宮田敏行先生との共同研究により実施しています。
<病態>
TTPには先天性と後天性が存在し、先天性(Upshaw-Schulman症候群と呼ばれている)は、ADAMTS13遺伝子に異常があることで発症する常染色体劣性遺伝の疾患です。後天性は、ADAMTS13に対する自己抗体(インヒビター)が存在することで同活性が低下する自己免疫疾患です。VWFは主として血管内皮細胞から分泌され血液中に存在する止血因子です。血小板と結合して血栓を形成しますが、その血小板との結合能は分子量が大きいほど強く、高分子量VWFが血液中に存在すると血栓傾向が強くなります。血管内皮細胞から分泌直後のVWFは超高分子量VWF重合体(unusually large VWF multimers : UL-VWFM)と呼ばれますが、ADAMTS13により切断され、止血に必要な適度な分子量のVWFとなります。また、VWFはずり応力の高い部分で活性化され、血小板との結合が強くなります。TTPではADAMTS13活性が著減するため、UL-VWFMが切断されずに、高いずり応力の発生する微小血管で血小板血栓が形成されます。微小血管に血栓が形成されると、腎臓や脳などの終末臓器では虚血による障害が発生します。
<検査所見>
TTPにおける血小板減少は高度で、中央値は1万/uLともいわれています。貧血は、機械的溶血によって起こるためクームス試験(赤血球表面に結合する抗体や補体を検出する試験)は陰性です。ヘモグロビン値は7−10g/dLの症例が多く、間接ビリルビン、乳酸脱水素酵素(LDH)、網状赤血球の上昇、ハプトグロビンの著減などの溶血所見を認めます。破砕赤血球の出現はTTPに特徴的な所見ですが、TTPで認めないことやDICで出現することもあるため注意が必要です。腎機能障害は軽度であることが多く、血清クレアチニン値2 mg/dL未満であることがほとんどです。
<診断>
図1はTMA疑い症例におけるTTPの診断手順です。血小板減少と溶血性貧血を認める場合にADAMTS13活性を測定し、10%未満であればTTPと診断します。その後、ADAMTS13インヒビターを測定し、陽性であれば後天性、陰性であれば先天性が疑われます。ただし、力価が低い場合にインヒビターの判定は困難な場合があります。また、ADAMTS13に対する自己抗体は、ほとんどがADAMTS13活性を阻害するインヒビターですが、非阻害抗体である場合があります。非阻害抗体は、ADAMTS13に結合することでクリアランスを増加させます。先天性では常にADAMTS13活性は著減していますが、血小板減少や溶血性貧血を常に認めるとは限らず、注意が必要です。先天性TTPの診断は、両親のADAMTS13活性などを参考に行い、最終的にはADAMTS13遺伝子解析によって確定診断します。2024年4月時点で、72人が臨床的に先天性TTPと診断され、うち69人においてADAMTS13遺伝子解析が実施されています。解析によって66人の患者で原因性ADAMTS13変異の一対が同定されています。これまでに合計64家族で70種類の異なる変異が検出されており、世界で報告されているADAMTS13変異のうち1/3が日本から報告されています。
<治療>
先天性TTPに対する治療は新鮮凍結血漿(FFP)の輸注で、これによりADAMTS13が補充されます。2~3週間に一度FFPを定期的に補充する症例もありますが、発作時以外はFFPの輸注が必要ない症例も存在します。
一方で、これまでFFP輸注によるアレルギー反応や輸注に時間を要することなどが問題となっていました。2024年3月遺伝子組み換えADAMTS13製剤が本邦でも承認され、治療の選択肢が広がることが期待されます。
後天性TTPでは、できるだけ早期にFFPを置換液とした血漿交換を開始し、血小板が正常化するまで継続します。血漿交換によってADAMTS13の補充、ならびに、ADAMTS13に対する自己抗体や高分子量VWF重合体を除去する効果が期待できます。多くの症例では、自己抗体の産生抑制のため副腎皮質ステロイドが併用されます。これらの治療が有効ではない、もしくは再発症例では、自己抗体の産生を抑制する目的でCD20に対するモノクローナル抗体リツキシマブを使用する場合があります。
2022年12月、VWFに対する低分子抗体カプラシズマブが本邦で発売されました。カプラシズマブを血漿交換やステロイドに併用することで、血小板数の速やかな回復や、致死的合併症、早期死亡を減少させる良好な結果が報告されています。
なお、TTPに対する血小板輸血は血小板血栓形成をさらに促進するため、禁忌と考えられているので、致死的な出血を認める場合以外は行うべきではありません。
<予後>
後天性TTPは血漿交換を実施しなければ90%以上死亡する予後不良疾患ですが、血漿交換の導入により80%以上の生存が得られるようになっています。先天性TTPの長期予後は不明な点が多いですが、定期的な経過観察で比較的予後良好と考えられます。
参考文献 1) 松本雅則ほか : 血栓性血小板減少性紫斑病 (TTP)診療ガイド2023. 臨床血液 64(6)445-460, 2023