奈良県立医科大学輸血部

業務紹介

自己血輸血

自己血輸血とは

手術の際に、あらかじめ、もしくは術中に自分の血液を採取し、必要時に輸血する方法です。

自己血輸血の種類

◇ 貯血式(術前貯血法)

手術前に術中出血量にみあう血液を採血・保存し、術中・術後に患者さんに輸血します。

◇ 回収式(術中血液回収法)

手術中に出血した血液を回収し、患者さんに輸血します。

◇ 希釈式(術直前採血)

手術直前に自己血を採血し、血液量の不足分を代用血漿剤で補充します。術中・術後に血液を患者さんに輸血します。

 

輸血部における自己血輸血

自己血輸血

当院では、各診療科が個別に行なっていた自己血採血を、1998年より輸血部で行なうようになり、飛躍的に貯血式自己血輸血(術前貯血法)が増加しました。現在に至るまで輸血部では、採血実施、保管、管理を行っています。

依頼科は、整形外科・婦人科が多いですが、他に消化器外科、心臓血管外科、血液内科(骨髄バンクドナーさん)、小児科などからも依頼があります。妊婦の貯血は、産科医の管理のもと産科外来・病棟で行っています。

厚生労働省医薬食品局血液対策課の「輸血療法の実施に関する指針」より、「自己血輸血は院内で実施管理体制が適正に確立している場合は、同種血輸血の副作用を回避しえる最も安全な輸血療法であり、待機的手術患者における輸血療法として積極的に推進することが求められている」と提示されています。当院では、年6回の輸血療法委員会で自己血輸血の実績の報告、さらに自己血輸血の推奨を行い、実施、管理に努めています。

患者さんの自己血採血計画は、各科診療科医師により決定され、輸血部で貯血実施しています。ベッド数2床の輸血部自己血採血室があり(末梢血幹細胞採取も同室で行っています)、1日約1~6名の患者さんを、輸血部医師及び看護師が自己血採血を担当しています。

患者さんにとって安心して採血に望める環境づくりとして、自己血採血マニュアルの作成、採血計画表での患者さんスケジュールの管理、問診表による患者さんの体調確認など、誰が見ても分かるシステムを作成しています。また、輸血部看護師による専門的な採血オリエンテーションの実施などを行い、安全・安心な自己血採血を目標に日々業務にあたっています。

 

自己血の特徴

自己血採血の適応・基準

  • 厚生労働省「採血及び保管・管理マニュアル」に基づいて策定。
  • 貯血量は、最大手術血液準備量(MSBOS)に基づき各科主治医が決定します。

自己血輸血の利点・欠点

◇ 利点

  • 輸血に関連した感染症(未知の病原体を含む)の伝播がない。
  • 同種免疫の予防。
  • 不規則抗体が産生されない。
  • 不規則抗体保有者に適合血が確保できる。
  • 輸血後移植片対宿主病(輸血後GVHD)がない。
  • 輸血関連急性肺障害(TRALI)がない。

◇ 欠点

  • 患者さんから採血するため、健常者に比べて採血に関連したリスクが高い。
  • 高齢者が多いので、若年健常者に比べて採血に関連したリスクが高い。
  • 貯血の際に、血管迷走神経反射(VVR)が起こり得る。
  • 循環動態へ及ぼす影響を配慮しなければならない。
  • 貯血・保存中に細菌感染・細菌増殖が起こり得る。
  • 輸血過誤を起こしたときの感染症伝播への危険性が高い。
  • 輸血用血液の確保量に限界がある。
  • 採血・保管・管理に人手や技術が必要となる。

自己血採血時のインフォームド・コンセント

自己血輸血を行う場合には、主治医が患者さんに対して自己血輸血についての説明を行い、同意を紙面で得る。

◇ 説明内容

  1. 手術に際して、ある程度の出血が予測され、輸血を必要とする場合があること。
  2. 輸血を行なわない場合のリスクについて。
  3. 輸血の選択肢としては、自己血輸血と同種血輸血があること。
  4. 同種血輸血には、副作用や合併症をきたす可能性があること。
  5. 自己血輸血の意義とリスクについて。
  6. 必要量の貯血を行うには日時を要すること。
  7. 貯血を行うために血液型や感染症の検査が必要であること。
    (※HIV検査を行うには患者さんの同意書が別途必要です)
  8. 万全の対応にもかかわらず、保存中のバッグの破損や細菌汚染により、使用不可能となる場合があり得ること。
  9. 貯血量が不足の場合や予測以上の出血により生命に危険がある場合には、同種血輸血を併用することがあること。
  10. 輸血を必要としなかった場合には、自己血は他患者への転用は出来ず廃棄となること。

自己血採血手順

予約

  1. 主治医が電子カルテより自己血採血(貯血日・貯血場所・手術予定日)をオーダーする。
  2. 患者さんに「同意書」と「術前貯血式自己血輸血を受けられる方へ」の説明用紙で説明する。
  3. 採血計画表を準備し、血液型、感染症のほか、他科受診、検査などが重なっていないかをチェックする。
採血計画表記載事項
電子カルテより 血液型
細菌・ウィルス感染症
採血日
手術予定日
採血量 など
初回採血時確認事項 同意書の確認
アレルギーの有無
合併症(高血圧・心疾患・リウマチ)
日常生活動作(ADL)状況 など
各採血時確認事項 血圧・体温・脈拍・VVR
採血開始・終了時間
穿刺部位
止血状況
前回貯血後の身体変化 など

自己血採血室での採血

 1. 採血前
  1. 各科主治医のオーダーにより採血実施。
  2. 各科主治医は自己血採血前日、又は当日に末梢血の確認を行い、患者さんの貧血状態を確認しておく。
  3. 採血当日に、多重検査、他科受診がないことを確認する。
    ※絶食が必要な検査がある場合、造影検査、アイソトープ検査など時間調整する。
  4. 自己血輸血の説明と同意書の取得を行う。患者さんの署名、押印などを確認し、自己血採血室に持参する。
  5. 採血可能かチェックリストに記載された項目につき各科主治医が確認後、自己血採血室へ電話連絡し、自己血採血実施とする。
  6. 患者さんが自己血採血室へ出室の際、飲水制限を確認したうえで、水分の持参を説明する。
    (採血後の水分バランスの補正のため水分摂取を促す)
  7. 採血前に採血の流れ、所要時間等の説明を行い、体重、体調、睡眠、食事摂取状況を確認する。
    ※空腹時には、軽く飲食してもらってから採血を行なう。(VVR出現予防のため)
  8. 排尿を済ませているか、貯血後に摂取してもらう水分が準備できているかを確認し、ベッドへ誘導する。
  9. 血圧、脈拍、体温を測定する。
 2. 自己血ラベルの確認
  1. ラベルは、血液型により色分けを行っている。
    (A型:黄 B型:白 AB型:ピンク O型:青)
  2. 患者さんにも貯血前に採血ラベルの内容を確認していただく。
    ・氏名(漢字・ふり仮名 など)
    ・血液型
    ・手術予定日
    ・採血日
    ・採血回数
    ・有効期限
    ・生年月日
    ・性別
    ・診療科 など
  3. 「自署欄」に患者さん自身に記入していただく。
    ※署名が困難な場合(未成年、認知力低下、視力・聴力低下、上肢の機能不全等)は家人に代筆していただき、代筆者の名前・続柄も記入していただく。
 3. 採血実施
  1. 「日本自己血輸血学会 自己血採取指針」に準じる。
  2. 安全な自己血採血、VVR予防のため、自動採血機を使用して貯血を行う。
  3. VVR、類似症状出現時は、厚生労働省「採血及び保管・管理マニュアル」に準じて対応、処置する。
  4. 採血後は、少量の飲水を促し、気分不良がないか確認のうえ退室していただく。

貯血後の患者さんへの説明

  • 採血穿刺部の疼痛、腫脹の出現時は、病院へ連絡してください。
  • 飲酒は控え、食事・水分をしっかり取ってください。(治療上、水分、食事制限が必要といわれている方は医師の指示に従ってください)
  • できるだけ車の運転は控えてください。(高齢の方は、家族の方の送迎や付き添いをおすすめします)
  • 帰宅途中で気分の悪くなった場合には、横になって頭を低くして安静にしてください。
  • 採血直後から夕方、翌日にかけて体のだるさや脱力感、めまいなど起こる可能性があります。激しい運動、労働は避け、休養をとるようにしてください。
  • 入浴はシャワー程度にしてください。
  • 造血剤の注射や鉄剤の内服薬について主治医から説明があります。
  • バランスの良い食事をしっかり摂取し、鉄分を多く含む食品を意識的に摂取してください。